細胞の再構成をテーマに 生物のメカニズム解明に挑戦

細胞を構成する各要素から、細胞を再構成する研究をテーマにまい進している金子智行教授。手掛けているリポソームや心筋細胞の研究は注目度も高く、美容分野や医学分野に応用が期待されています。

細胞が持つ働きを解明し医療の進化にも貢献

「細胞の再構成」をテーマに、細胞そのものを再構成する他、細胞の働きを介して組織や器官の再構成を図る研究に携わっています。

ライフワークとして研究を進めているのが「リポソーム」です。リポソームとは、リン脂質で形成された人工膜に包まれた球状のカプセルです。内側に成分を閉じこめられることから、美容分野や医療分野での応用が期待されています。例えば、抗がん剤を封入したリポソームに、がん細胞を認識する抗体を付けて投与すると、抗体の働きにより体内のがん組織だけに接着するので、ピンポイントで抗がん剤を作用させることができます(ドラッグ・デリバリーシステム)。補助的な働きにとどまらず、体内の異物としてがん細胞を検知し、自身のエサとして食らい尽くすような自律型のリポソームを作り出すことができないかと研究を進めています。

他には、電極基板上に心筋細胞を一つずつ配置した細胞ネットワークを構築することで、心臓の構造を人工的に再現した疑似心臓の研究を進めています。この疑似心臓に薬剤を投与して反応を測定すると、心臓への負担や影響が可視化できるので、新薬の効能や副作用の有無を事前に確認しやすくなります。この研究は、早期の実用化が期待されています。

こうした生命科学の研究が、医学や薬学に発展して治療や投薬時のリスク軽減につながるのであれば、喜ばしいことです。細胞の新たな可能性を追究していきたいと考えています。人工膜小胞(リポソーム)について

リポソームの形成過程。生体膜を構成しているリン脂質に水を加えると、自発的に集合して人工膜小胞(リポソーム)を形成する

偶然で結ばれた恩師の導きで出合ったライフワーク

研究者として歩んで来た道のりは決して順風満帆とはいえず、数多くの失敗やつまずきも経験してきました。ただ、何かに導かれるような不思議な縁には恵まれていたと思います。最たる縁が、恩師との出会いです。

高校時代から「自身で細胞を作ってみたい、生命の起源の解明に近づいてみたい」とおぼろげながら夢を抱き、細胞のことを少しでも知ろうと分子生物学を専攻しました。大学院へと進学したものの、配属予定の研究室は教授が退官目前と聞かされ、前途多難な展開を案じていた時に後任として赴任してきたのが、生物物理学の第一人者である恩師・宝谷紘一先生でした。

驚くべきことに宝谷先生は、すでに高い評価を得ていた自身の研究を助手に引き継ぎ、新たな研究を始めるというのです。それがリポソームであり、まさしく自分がやりたかった「新たな細胞づくり」への挑戦でした。

宝谷先生の紹介により、複数の大学が学部をまたいで参加するナショナルプロジェクトの研究スタッフとして働いたことも、思い出深い経験です。異なる大学の工学部と医学部の研究室を行き来する日々は、理学部で学んだ私にとって、言語が違うと戸惑うほど、異質な空間に思えました。けれど、多国籍の人が集う工学部の研究室で英語のみでコミュニケーションを続けたこと、医学部の研究室で病理学に触れたこと、経験した全てが今の研究に確実に生きています。

「細胞を作りたい」という原点の思いは遠すぎる目標で、かなえるには相当の長い時間がかかるでしょう。でも、いつか誰かが実現してほしい。その時までバトンを途切れさせないように、恩師から受け継いだ思いに自分の思いを乗せて、次の代へとつないでいきたいと思っています。

宝谷先生(写真中央)の退官後、最初で最後となった同窓会。多くの人から慕われた先生だけに多くの人が集まり、異文化交流さながらの時間になった

不自由を感じる自由の中で自身の実践知を育ててほしい

恩師から受けた影響は大きく、研究内容はもちろん、教育者として学生と接するスタイルにも「イズム」として受け継がれています。

例えば、学生に接するときには、ニックネームで呼び合えるくらいの親近感を持ちつつ、学びの自由や主体性を妨げないように、見守りながらサポートすることを心掛けています。

学生が取り組もうとする研究テーマにも特に制限を設けていないので、近年はマクロファージ(体内に侵入した細菌などの異物を捕食する能力に長けた白血球の一種)や神経細胞などにも興味を広げています。

ただ、近頃の学生を見ていると、「自由にしていい」と判断を任せると、不安や恐怖に縛られてしまうのか、「まるで不自由な環境にいるように」何もできなくなってしまう傾向を感じています。何をすべきか指示された方が動きやすいと、自分から吐露する学生もいます。何をするか、どのように行動するか、自分で判断し、その判断を信じること。それら一つ一つの「自由」が、自身の未来を形づくる「実践知」になるはずです。自身の実践知を育ててほしいと願っています。

2019年夏のゼミ合宿で、教え子たちに囲まれた集合写真(2020年度は中止)。研究室の愛称LaRCの「L」を指で作るのが集合写真の定番ポーズ

(初出:広報誌『法政』2021年4月号)

この記事の著者
生命科学部生命機能学科
金子 智行 教授(Kaneko Tomoyuki)​​​​​​
1970年山形県生まれ。名古屋大学理学部分子生物学科卒業、同大学院理学研究科分子生物学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。東京医科歯科大学生体材料工学研究所准教授などを経て、2008年に本学理工学部兼任講師として着任。2013年生命科学部生命機能学科教授に就任、現在に至る。米国細胞生物学会、米国生物物理学会、日本生物物理学会会員。

この記事は法政大学様の記事を転載したものです。
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