企業が「気象危機」の時代を生きるために

2015〜2019年における世界の平均気温は1850年に観測を始めて以来どの5年間よりも気温が高く[1]、オーストラリアで大規模な森林火災が発生するなど、気象変動の深刻化が進んでいる。


このような状況下、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」が2020年から本格的な運用段階に入った。また、SDGs(持続可能な開発目標)にも「気候変動に具体的な対策を」といった目標が制定されており、世界で気象変動への対策が加速している。


各国が実施している対策として、石油や石炭などといった化石燃料の代わりに再生可能エネルギーや原子力など、CO2排出量の少ないエネルギーの導入強化が挙げられている。なかでも、自動車業界を驚かせているのは、各国・地域におけるガソリン車・ディーゼル車の販売禁止の動きだ。フランス政府は2040年にすべてのガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止すると発表し、世界最大の自動車市場である中国は2035年を目処に新車で販売するすべての車をEV(電気自動車)などのNEV(新エネルギー車)やガソリンと電気を併用するHV(ハイブリッド車)にする方針を示している。特に英国政府は、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止とするうえに、ハイブリッド車に関しても排出ゼロの規制をクリアしたもの以外は35年までに販売を禁止すると表明した。このような動きは電気自動車の普及を後押しすることになる。日本の乗用車は、国内生産だけで考えても、2019年においては半数超が輸出向けであり[2]、海外市場が非常に重要であるといえる。ガソリン車とハイブリッド車が主流である日本は、海外市場も含め自動車業界の変化にあらゆる対応が必要となってくるだろう。


他方、SDGsの17目標のうち、気象変動に関する目標が最も重要な課題である日本には、国際社会からその対応への期待が高まっている。そのようななか、日本政府はガソリン車などの販売禁止の意向を示してはいないが、菅総理大臣は2020年10月26日の臨時国会の所信表明で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、『2050年カーボンニュートラル』を目指すと宣言し、気象変動に関する動きが加速しそうだ。


近年、船舶分野や航空分野でも電動化の研究開発が促進されており、気象危機時代を生きるためにあらゆる業界に革新が起きている。幅広い事業が変化に上手く対応できるために、政府は『2050年カーボンニュートラル』を実現するための具体策を表明することが求められよう。さらに、それを支える政府の民間企業および消費者に向けたさまざまな支援策にも注目したい。


[1] WMO(世界気象機関)
https://library.wmo.int/doc_num.php?explnum_id=9936

[2] 日本自動車工業会 四輪車輸出台数および四輪車生産台数
http://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/index.html

この記事は帝国データバンク様の記事を転載したものです。
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この記事を書いた人

帝国データバンク

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株式会社帝国データバンク(ていこくデータバンク、英: Teikoku Databank, Ltd.、略称: TDB)は、企業を専門対象とする日本国内最大手の信用調査会社である。1900年3月3日に後藤武夫が帝国興信社として創業、その後法人化し商号を帝国興信所とした。1981年に社名を現在の帝国データバンクに変更。それと同時に従来請け負ってきた結婚調査・雇用調査等の個人調査を廃し、業務を企業信用調査に特化した。本社は東京都港区。