ESG事業、人材確保につながる可能性も。新たな研究結果が判明 

ESGに取り組む企業は、新卒や中途採用の求職者、さらには所属する社員にも魅力的な企業として評価されているということがわかったーー。こんな興味深い理論を2021年6月に発表した女性がいる。経済社会システム総合研究所の小島明子研究員だ。
小島研究員のレポート「社会的課題への取組みが企業の人材確保力に及ぼす影響の分析」によると、データを解析した結果、ESGスコアが上位に入る企業は、キャリタスの就職ランキング上位に入る確率が、そうでない企業より約3割高く、社員の勤続年数も約2年長くなるということがわかったという。
具体的にはどんな研究内容なのだろうか、小島研究員にお話を伺った。

ー今回の分析でわかった結果を改めて教えて下さい。

小島様:
国内の主要企業が開示している環境面、社会面、ガバナンス面での取組みに関する情報をもとに、日本総研が独自に評価した2019年度のESGスコア(=企業の社会的課題への取り組み)のデータを、主要就職情報サイトのひとつである「キャリタス」による就職ランキングや、定着率、平均勤続年数と突き合わせ、関係性を分析しました。就職ランキングは、大学生や大学院生を対象に行なったアンケートがもととなって作られています。

その結果、ESGスコアが上位25%に入ると、就職ランキング上位に入る確率が約3倍弱(5.9%から24.2%へ)高くなりました。また、従業員に関しても、就職3年目の定着率が約4%(6.0%から17.5%へ)上がり、勤続年数も約2年長くなる、といった関係が示されました。

この分析結果からは、企業の「人材確保力」を向上させるためには、「社会課題への取り組み」=ESGへの取り組みが一定の効果をもたらすということです。

この結果から導き出せることはなんでしょうか。

 ESGの課題に取り組むことは企業にとってコストと考えられることが多いですが、逆に企業にとっては新卒、転職人材、既に入社している人材、いずれの立場から見ても魅力のある企業として評価されており、優秀な人材の獲得や維持につながるということです。その先にある「企業価値」の向上にも貢献する可能性が高いと思っています。

ーなぜ今回、このようなテーマでの分析をされようと思われたのでしょうか。

仕事でいろいろな企業にヒアリングをすることが多いのですが、「社会課題への取り組みをやって企業にどんなメリットがあるのか」と聞かれることが多かったんです。「それが大事であり、うちもやらなきゃいけないことはわかっているが、自分たちの企業の価値につながるかわからない」と話される声が多く、データできちんと「価値向上に寄与するんです」とお示ししていくのが意義があると思ったためです。企業の皆さんには、ESGに取り組むことが優秀な人材の獲得につながるということを実感してほしいです。SDGsに関心が高い若者が増えています。採用という点でも取り組みには意義があると思いますが、次世代の若者たちがより良い社会を求める中で、大人こそが持続可能な社会づくりに貢献していく社会的責任があります。

新卒の学生たちが企業を選ぶ上でも重要な要素として捉えていることがわかりました。

今、「社会的課題」というテーマを起点に社会に大きな変革が起きています。学生や社員がキャリアを考える上でも、どのような社会課題があるかを考えることは指標として重要です。成長産業がどのようなもので、自分が目指す企業がその産業なのかを考えることは、たとえ経理の仕事をやるにしても関わってくる要素なのです。自分の会社が社会の役に立っているかは自分の今後の社会人人生を考える上で大事なことです。私達はよく企業を選ぶときに、育休が取れるかどうか、給料が高いかどうか、などと考えがちです。つまり、近視眼的な見方、短期的思考に陥ってしまいがちですが、「人生100年時代」が謳われる中で、将来を簡単に予想できないこの世の中を生き抜くためには、大局的に考えないといけません。どのような分野でどのような仕事をしていくかということを真剣に考える上でも、社会課題、環境問題へのアンテナを張っておくことが必要になっていきます。

ーSDGsの17目標は、働きがいのある人間らしい仕事を達成することも目指しています。働き方の改善や人材の活用という点では、企業はどう取り組むべきでしょうか。

日本でも働き方改革が流行っていますが、従業員のためにより良い職場環境を提供するだけではなく、能力開発や長期的なキャリア形成にも取り組むことで企業価値は上がっていきます。「人材育成」というものは、すぐに効果が出ません。教育するには時間がかかるし、成果も人それぞれで、すぐ出るとは限りません。でも、企業が働き方改革に取り組むことは最終的にプラスになり、長期的に効果があります。それぞれの個々人に合わせてキャリア形成をしていく必要があるのではないでしょうか。

ーESGに取り組む上で、日本企業はどういった課題をつきつけられていますでしょうか。

日本企業の中ではESGはもともと関心が高くなかったと思います。気候変動が激化する中でようやく着目されるようになりましたが、これまでは「女性活躍の促進」というテーマも、政府が言っているからといったような外圧的要因からやっていたに過ぎなかったのではないでしょうか。これからは内発的にやっていかないといけません。言葉は流行っていますが、きっかけとして捉えつつ自分たちは何ができるのかを考え、進んでいくことが必要です。世の中の変化が激しくなり、ビジネスのあり方そのものが変わってきています。長期的に次世代のことまで考えて事業を行っていて、社会的課題に資するビジネスをやっていくために長期的かつ大局的に物事を考えていく、つまり着眼大局、着手小局で進めていくことが非常に重要だと思います。企業は「SDGs」や「ESG」という言葉に振り回され、「流行っているから取り組む」というマインドで臨むのではなく、あくまで「きっかけ」として考え、真剣に自社の事業を見直してほしいと思います。

小島研究員のIESS分析レポート「社会的課題への取組みが企業の人材確保力に及ぼす影響の分析」
(2021年6月、経済社会システム総合研究所)

小島明子・客員主任研究員(経済社会システム総合研究所)

[ 略歴 ]

日本女子大学文学部卒業後、民間金融機関を経て、日本総合研究所入社。早稲田大学大学院商学研究科修了(経営管理修士)。働き方改革やESG企業評価が専門で、現在、創発戦略センター ESGリサーチセンター所属。著書に『「わたし」のための金融リテラシー』(きんざい)。

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