コロナ前から売上4倍 1枚の「バナナの紙」がアフリカの農村救う

バナナの茎の繊維で作られた紙を開発し、アフリカのとある農村を支えている会社がある。通常は捨てられてしまう部分を再利用することで、バナナ農家の収入を守りつつ、森林伐採やゾウの密猟を防ぐことにもつなげている。
2011年の試作以来、徐々に知られるようになり、コロナ禍にもかかわらずペーパーの売上は、コロナ前の4倍にはねあがった。株式会社ワンプラネットカフェの代表取締役社長であるエクベリ聡子さんに、開発に至った経緯や、SDGsにかける思いを伺った。

株式会社ワンプラネット・カフェ 代表取締役 エクベリさん

足かけ5年の試行錯誤を経て

御社の作っている「バナナ・ペーパー」とはどんなものですか。

アフリカ大陸の南の方にある「ザンビア」という国のバナナ畑で、普通なら切って捨てられる「茎」から取れる繊維を利用し、日本の和紙工場で古紙や環境認証パルプを加えて作った紙です。バナナの匂いがしたり黄色いということはないのですが、通称「バナナ・ペーパー」と呼んでいます。

日本国内の32社の印刷会社や紙製品メーカーなどと一緒に商品を開発し、日本をはじめ世界15カ国で販売しています。包装紙、大学や高校の卒業証書、最近だと紙ハンガーにも使われています。色々なシーンに広がっていることが嬉しいです。

ーきっかけは何だったのでしょうか。

 2006年の夏休みに、夫で環境ジャーナリストのペオとザンビアを旅行しました。そのときに訪れた国立公園で見たキリンやゾウといった野生動物や美しい自然に感動したのですが、一方で、ザンビアの農村部では1日200円以下で生活している最貧困層が約5割以上を占めており、その貧困問題によって、ゾウの密猟や森林伐採に手を出す人がいることを知りました。それで、なんとか雇用を生み出しつつ森や野生動物を守れる方法はないかと5年にわたり試行錯誤して、行き着いたのが「バナナペーパー」でした。

バナナの収穫後に捨てられてしまう「茎」の部分を再利用しつつ新たな商品を生み出せないかと考えたのです。2011年から、バナナの茎から繊維を取り出して紙をつくる取り組みを始めました。

ー「バナナ・ペーパー」を作ることで何が実現できるのでしょうか。

 バナナ農家は、バナナに加えて、捨てていたものも販売できるようになることで、今までよりも収入を得ることができます。現地の工場には、最貧困層の地域で暮らし、これまで働いたことのない人々にも来てもらい、雇用を生み出すことができました。

アフリカでは一般的に1人の雇用で、その家族や親戚など10人の暮らしが支えられると言われます。今、工場では22人を雇用しているので220人分の暮らしを支えているということになります。収入、栄養のある食事も取れるのです。

雇用を生み出し、貧しい農村の生活を支えることで、森林伐採や密猟を防ぎ自然環境保護にも貢献できていると感じます。また、日本の伝統技術の継承にもつながることを期待しているところです。人、森、野生動物を守る紙なのです。

ーほかにはどういった事業に力を入れていますか。

工場では、安全な井戸水を朝夕、周辺の村に住む人たちに解放しているほか、ソーラーランプの購入支援を通じて1000人以上に照明を届けました。村で一般的に使われているろうそくや灯油ランプは火事や子どもの火傷につながり危ないのです。また、現地での教育促進も行っており、2019年には初めてメンバーの子ども2人が大学に入学しました。仕事を通じて、生活の質の向上を支えたいという思いで活動しています。ザンビアの工場では、国連によるSDGsの17目標全てに関わる取り組みを行っています。

見切り発車でもいいから「やってみる」

株式会社ワンプラネット・カフェ 代表取締役 エクベリさん

ーエクベリさんが考える、SDGsで必要なことは何でしょうか。

取り組みが途中でも、まずは世に出してやってみるスピード感です。まずは踏み出してから改善していけばいいのです。残念ながら、日本では実現・成功の可能性が100%にならないと実行できないという文化がまだ強いと感じます。

見切り発車は失敗も多いですが、今のように変化が大きい時代にはチャレンジを続けることが大事です。SDGsの国別達成度ランキングでトップを維持するスウェーデンは、人口は日本の12分の1くらいですが、新しい産業やスタートアップ企業がどんどん生まれており、1人当たり名目GDPも日本より高いです。教育の中でも失敗が容認されており、それが日本との違いだと感じています。

また、スウェーデンで小規模に始めた事業を、その後ヨーロッパやアメリカに広めて世界中に展開するスケールアップもうまいです。よく「小さい国だからできるんだろう」という人がいますが、国の規模感は関係ありません。SDGsの目標を達成する「世界初」の取り組みが各国でどんどん起こっています。高い技術力はあるのに日本では有効に使われていないケースも多く目にしています。

ー日本で仕事をされる中で違和感を感じることはありましたか。

日本では、残念ながらまだ世界の課題と自らのつながりについての理解が低いと感じています。例えば、紙関連の会社さんと話をすると「日本では違法伐採による紙は使っていないと聞いた」と言われることがあります。違法か否かについては、その国の基準によるため非常にあいまいなところがあります。

一方で、世界で今議論されているのは、「森林破壊につながる伐採をやめる」というレベルです。こういった世界水準を満たしていくためには、第三者認証をきちんと受けているかが大事です。日本では従来、取引をするときに「いつも取引しているから」「●●さんが売っているものだから」といった信頼で成り立ってきたという背景もあるかと思います。

これは素晴らしい文化でもあるのですが、私たちの日常にある多くのモノや資源が世界中から日本へ入ってきている今の時代の取り組みが求められています。

欧米では卵一つとっても鶏を育てる環境までを重視して認証を受けるという流れが広がっています。日本の企業は責任感が強く、中途半端にできないという思いがあったりするかもしれませんが、日本の業界内で通用してきたスタンダードが世界に通用しなくなっています。サステナビリティにおいても、世界水準を取り入れていかないと、海外に商品を打ち出した際に太刀打ちできないことも増えていくでしょう。

ー日本では女性活用も他国に比べると進んでいないように感じます。

日本は、ジェンダー平等国際ランキングで120位となっています。これは、多くの意味で深刻に捉える課題だと思います。

例えば、オリパラ開催前にも、セクシュアルハラスメントなどを巡り、トップや関係者の辞任などが相次ぎましたが、これは一つの象徴的な出来事だと捉えたほうがよいと思います。

世界をはじめ日本でも、価値観や倫理観が大きく変わっているにもかかわらず、日常の中ではそういった議論をしたり、指摘をする、されるといった機会が少ないと感じています。

男女平等というと、会社などでは「役員や管理職での女性の登用」といった話題が上がりがちですが、実は、その手前でも、様々な考えや視点を持つ人たちが議論したり、アイディア交換をする機会を増やす、といった身近にできることも数多くあります。また、国籍、宗教、性別が違う人が集団の中に入ることで、日常的なバイアスから解放されることもよくあることです。多様な価値観を取り入れることにより根本から組織が強くなるということだと考えています。

これまで少し厳しく聞こえたかもしれませんが、私はサステナビリティの真の推進によって、日本、日本人、日本企業の強みが大きく発揮できると信じています。他への思いやりを持ち、自然と調和する精神があり、課題に対して、地道な努力と高い技術力を持って取り組める。この国民性を世界の課題解決に活かしていければ素晴らしいと思います。

既に日本でも、多くアクションが生まれていますので、その点がつながって線となり、大きなサステナビリティの輪が広がっていけばと思います。

エクベリ聡子 さん

【経歴】

株式会社ワンプラネット・カフェ 代表取締役。日本出身。欧州、ザンビア、インドのグローバルなパートナーシップを通じて、持続可能な発展に向けた事業開発支援を行う。産学官民のネットワーク運営や、環境省環境人材育成コンソーシアムの企画、東北大学大学院の環境関連修士課程の開発などを経て、2021年に当社を設立。

NPO One Planet Café ザンビア共同設立者、ワンプラネット・ペーパー協議会副会長、日本エシカル推進協議会発起人、株式会社イースクエア取締役(2006年-2015年。企業向けCSR・環境取り組み支援、研修、講演)。著書に「うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること」(共著、宝島社)、「地球が教える奇跡の技術」(執筆協力、祥伝社)

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