笑顔はゼロ円ではなく価値あるものー。 「笑顔」で起動する除菌デバイス開発。

センサーに向かって微笑むと、除菌液がプシュッと手のひらに広がる。「エミーウォッシュ」と呼ばれる愛らしい仕掛けのマシーンを開発したのは、元ソニー株式会社のエンジニアで、マイネム株式会社の代表取締役、末吉隆彦さんだ。手指が除菌されるたびに笑顔が1カウントされ、感謝財=emmy(エミー)として貯まり、教育機関などに除菌液などが無償提供されるという、循環型エコノミーの仕組みを実現した。末吉さんに、開発の狙いと裏側を伺った。

末吉隆彦さんのご経歴

マイネム株式会社 共同代表取締役

[ 経歴 ]
1992年、ソニー株式会社入社。ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)リサーチャーを経て、2007年、ソニーCSL初のスピンアウト企業となるクウジット株式会社を設立、人工知能やデータ解析技術を活用した未来予測と因果分析を手掛ける(現任)。「笑顔」や「幸せ」といった長期的な社会インラフの追求から、2015年、慶應義塾大学大学院SDM研究所研究員となり、「人を幸せにするおカネ(エミーとゼニー)」など、笑顔とお金に関する共同研究を行っている。2018年から現職。

ーエミーウォッシュでどんなことができるのでしょうか。

 笑顔づくりと感染症予防の社会装置であり、公共の社会の接点づくりです。この装置は1笑顔ごとに0・5円たまって、5万円になると学校に寄付されます。設置する会社さんがSDGs実践や健康経営の目的などで、設置代を払う場合もあれば、設置場所を応援したい人がギフトとしてお金を払う場合もあります。
 
 社会実験でもあるのでプロトタイプで1年間実証実験をやって、商品化してすでに1年が経過しました。色々なところで取り上げてもらい、知る人ぞ知るくらいには浸透してきたので、次は、企業だけでなく、さまざまな地域課題と連携したアクションに繋がっていけばいいと思います。
 
 たとえば、地域の人がこの装置との関わり方を自由にアレンジすることが出来て、いま標準のemmyWash除菌液は、竹害とされている課題に対して竹の成分であるモウソウチク抽出物を配合しているものを使っていたりしますが、岡山では林業がさかんですが未利用材の課題もあり、それをつかったアロマ蒸留水と組み合わせて地域活性化に使っている場所もでてきました。色々な人にコミュニティーとして、地域の課題を持ち寄って、掛け算になればいいなと思っています。

ーきっかけは何だったのでしょうか。

 実はソニーでエンジニアをしていて、PCやアプリケーション、ゲームを作っていました。その際に、笑顔の計測技術も開発していました。しかし、プロダクトは一回一回ですぐに消費され終わってしまうので、より持続的な社会インフラ的なものが作れないだろうかと考えていました。

 その後、東日本大震災の後に笑顔の力を可視化出来ないと考えていた頃に、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授と出会い、弟子入り。

 共同研究者になって、笑顔という体験をテクノロジーを使ってうまくデザインする必要があると思い出したのです。計測技術によって、笑顔の力を可視化する、広がりを持った社会インフラが作りたいと考えるようになったのはそのころです。

ーなぜ笑顔が必要だとお考えになったのでしょうか。

 現代は分断と社会不安の時代です。特に今は新型コロナウイルスの感染予防で日常的にマスクをつけており笑顔が見えにくい。だからこそ可視化する必要があると思いました。表情筋が鍛わると、健康にもなりますし。
 
 WHOが提唱する健康の定義は、身体面、精神面、社会面がいずれも満たされている状態ですが、社会面は見落とされがちです。現代社会では、ストレスや仕事、経済的状況といった社会的要因で、心を壊してしまう人が多いように感じます。

 一方で、社会そのものが不確実かつ複雑で将来の予測がつきにくい状況になっています。新型コロナウイルスの感染拡大は、そうした状況に拍車をかけており、先の見えない日々に疲れた人々から笑顔が失われつつあると思います。だからこそ人と人をつなぎ、互いを支え合う架け橋となる「笑顔」の力で、小さなところから少しずつ空気を変えていければいいと考えています。

ー末吉社長の、開発を志向する原動力は何でしょうか。

 面白さで駆動しています。ワクワクしながら、これをやったら喜ぶんじゃないか、作ったものをどう使ってくれるか、などと想像してニヤニヤしながら企画するのが好きなんですよね。どのくらいお金がかかるんだろうというような細かいことよりも、とにかく新しいことが好きなんです。ベンチャー企業なので面白がってやっています。

 たとえば、ほかに事業にしたいと思って作ったのが、センサーが笑顔を感知すると「おみくじ」がでてくる「幸せ発見木」。ほかにも貯金箱とか、いろいろなプロトタイプを作りましたが、いずれも反応が良かったです。

 除菌装置を考えついたのはコロナが感染拡大してからで、除菌の習慣がなかった日本で啓発しないといけないと考え、エミーウォッシュの開発をはじめました。

ーエミーウォッシュを使って、社会にどうなってほしいと考えていますか。

 SDGsを考えられるきっかけにしてほしいです。このマシーンはガジェットではなく、社会装置であり、社会との公共との接点をデザインするものです。それから、エミーウォッシュ本体に蓄積された笑顔の数は、感謝や恩送りのお金を表す通貨単位「エミー」として「エミーバンク」に貯金されます。
 
 貯まったエミーは、教育機関や地域コミュニティなどにエミーウォッシュを無償で設置してもらったり、感染症対策プロジェクトへの支援といった活動に利用されたりします。エミー(=笑顔)とゼニー(=お金)の両方がうまく関連し合うことで、笑顔も循環していく。お金を挟んだのは、マネタイズしながらでないと継続性がないということも意識しているからです。

ー今、日本が社会課題に向き合う上でどういった点が不足しているでしょうか。

 公共で共有する「コモンズ」の考え方です。われわれは持ちつ持たれつのお互い様であり、利己と利他の概念、つまりギブアンドテイクで共有財を作っていくという考え方がまだ不足しているように感じます。

 一方、事業化となるとビジネスライクになってしまって、社内で睨み合ってしまうと現場は進みません。経済を回しながら、事業としてどう開発していくかを考えていく必要があります。

 また、事業は1企業内で締め出すのではなく、他企業と取り組みを一緒にしながらやっていけるはずです。別の企業で何かに長けている人が、協力できることがあるだろうし、また別の企業の窓際で何もせずにいるいる人が実はすごくこっちの企業ではほしい人なのかもしれません。

 社会資本がコストという扱いになっていますが、噛み合わせるとものすごい財産になり、社会課題も解決されやすくなると思います。これが、コストtoキャピタルという考え方です。これはコストだと思っているがコストではなく、経済・価値を回すための資本だという考え方で、お金がかかっていることをコストと見ずに、逆に財産であると考えて、モチベーションを組み合わせればすごいものができる可能性があります。

 しかし今の日本ではアイディアや資金と言った資本が埋まってしまい、うまくかみあっていません。それを発掘して、自分でやってみて、社会に対する事業の呼び水にできたらいいと思います。みんなでアイディアや構想を共有して、改良していくことができたら尚良いです。

ーエミーウォッシュもそうした、社会内での広がりを意識されています。

 エミーウォッシュも、先に事例を挙げた通り除菌液を入れる部分に別の液体(アルコール液タイプの除菌液や蒸留水など)を入れることも可能です。笑顔が感知されたら〇〇できる、という、この〇〇の部分を自由自在にアレンジしてもらうことができます。それを使う人の考え方とのかけざんで、全く違う社会装置になっていく潜在力があります。

 SDGsの17種の目標で、色々なパートナーリングができていけばいいと思います。物体ではありますが、そこで言わんとしているところが感染症予防や笑顔の大切さといった話を広げるための社会としての接点です。

 それがきっかけとなり、また新しい問いが生まれて繋がっていくと良いなと思う。社会装置をきっかけに、新しい問い、理念の共有ができる。エミーウォッシュの力で、面白がって背後にある何を問おうとしているかが嬉しいんです。

ー「笑顔」の力をどう認識されていますか。

 笑顔の価値は、「スマイル=ゼロ円」ではありません。価値あるものです。この考え方に共感してもらって、この装置のファンになってもらい、共感の輪をつなげていきたいと思っています。もちろん笑顔だけで全部解決していくわけではありません。

 落ち込むこともあるでしょう。でも笑顔のポジティブな力を私は信じています。紛争や格差といった、さまざまな世界的課題に世界中の人が日々取り組んでいますが、すぐには解決できません。衛生環境の改善も進んでいませんが、そうした多くの社会課題の解決に、誰もが持っている「笑顔」の力で貢献できるような装置を世に打ち出していければと考えています。

emmyWashサービス・機器についての問合せ窓口:「マイネム株式会社」

(メール)info@myname.tokyo
(電話)050-3684-9912 (平日10:00~17:00)
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